『エピタフ』第二章:?「うつくしい光」更新
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光が散っている。
まるで花が咲き乱れているかのように見えるのは、床や壁と所構わずに形成されている赤い結晶たち。静まり返り、きんと研ぎ澄まされた空気が漂う螺旋階段の踊り場で、冷えた瞳は音を立てない気配の方へと視線を向けた。
「——何を期待していた?」
そう問うて、彼は耳元で淡く光る宝石に指先で少しだけ触れる。それからその青と緑の狭間を漂う目で、足下まで近付いてきた鮮やかな緑色の瞳を映した。答えの代わりなのか、緑色は自身のもつ黒い尻尾をゆるりと揺らすだけである。
「……何故助けた? 助ける価値があったか? あんなやつに、おまえは何か見たのか」………
『エピタフ』第一章:?「導きたるきせき」更新
※以下、「導きたるきせき」の本文のお試しです。
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瞼の向こうが白んでいる。
それがなんだか気になって薄目を開ければ、太陽の光が容赦なく窓から差し込んできて、カロルは思わず顔をしかめた。紛うことなき朝である。少年は寝台の上、自分の身体に降り注いでいる陽光をぼんやりと眺めながら、しかしそれがやっぱり眩しくて、ごろりと寝返りを打った。
(昨日のあいつ……)
少しだけ開けていた瞼を閉じる。なんなら、二度寝だってできるのだ。此処はふるさとの宿屋ではなく、カスケイドの宿屋。そうだ、今は自分で働いて稼いだ金銭で借りた部屋で、こうして寝泊まりをしていた。………
『エピタフ』第一章:?「あざやかなる漣」更新
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澄みわたる青空の中を、鴎が白い軌跡を描いている。
カロルは額に片手を上げて、空を見上げた。白い太陽の光が故郷で見るよりもずっとまばゆく感じて、彼は目を細める。思えば、ラピタリアの空も海の色と同じく、ふるさとのそれよりも深い青色に見えた。
少年は視線を下ろし、自分のつま先を見る。荷下ろしをすべて手伝い終え、さて正式に船を降りようと渡り板へ一歩踏み出せば、その期待と緊張にまるで足下から熱が上ってくるようだった。空気を飲み込んだ喉がごくりと鳴る。気を抜けば、手と足が同時に出てしまいそうだ。………
『仔犬日記』〈かつて王国はふたり〉第一話「光のしっぽ」
『マイロウドの手記』第八話「シグナル」更新
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この道の上で、何度立ち止まっただろう。
薄葉緑の街を出て二日。コーデリアと、淡い黄緑色をした薄葉を湛える高木——ゼン曰く、いろんな地域でそれぞれが様々な葉の形で育つために、リバティベルと名付けられた木らしい——は、街道の左右に陽をめいっぱい浴び、そよそよと吹く風を受けて緩やかに揺れていた。
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